「あのね、私ね、明日誕生日なの。だからね、一日だけ、私がろっちーを独り占めしていいかな?」
「うん、いいよ!目の前でナンパしないようにしっかりと見張るんだよ、!」
 私がおずおず言ったお願いを、ノンちゃんを筆頭にみんな快く承諾してくれた。口々に「、がんばれ!楽しんできてね。」と笑顔で言ってくれる。普通、彼氏が他の女の子と遊ぶのなんて良い気はしないはずなのに、みんな優しい。

 私たちはろっちーと付き合っているけれど、ライバルではない。ろっちーが誰かを選ぶなんて考えられないし、そういったことを私たちはすでに諦めているのだ。それでも私は、やっぱり誕生日だけは二人でいたい。だから、ものすごく申し訳なかったけれど、ろっちーを「予約」した。彼氏の予定を「予約」するなんて、ちょっと変だけど、どうしても二人きりで誕生日ぐらいはデートしたかった。みんな、その気持ちを汲んでくれたみたいでとても嬉しかった。たぶん、この制度は恒例と化すに違いない。
 そのあと、ろっちーにもきちんと、二人きりでデートすることを約束した。ろっちーは口では「が頼むなら絶対守るよ。」とか言うけれど、なんだかんだ言ってこういった約束は基本的に守らない。ものすごく稀に守るけど、それはそういった行為の時だけな気がする。だから、ろっちーよりも先にみんなにお願いしたのだ。これで、明日、ナンパ以外に女の子が増える要因は無くなる。それは私がなんとか頑張ればいいだけなのだ。
 私は、明日何を着るか散々悩んだ末に自分なりに一番可愛く見える服を選んで寝ることにした。

 ろっちーが来るであろう時間の10分前に、私は待ち合わせ場所に着いた。ろっちーは女の子にとても優しいから、待ち合わせよりいつも早く来る。女の子を待たせてはいけないらしい。でも、私からしたら、ろっちーの方が待たせてはいけない人物だ。ろっちーは待ってる間についつい女の子をナンパしてしまうのだ。呼吸のように、脊髄反射のように、女の子を見ればナンパしちゃう。だから、決して待たせてはいけないのだ。特に今日は。

 それにしても、今日の恰好は大丈夫だろうか。いつもより頑張って可愛い服を選んだつもりだ。近くのお店のウインドウで、さりげなく自分の恰好を確認する。
 いつもはジーパンだけど、ろっちーに会うから、ミニのワンピースにしてみた。普段履かないミュールだって履いてみた。髪の毛だって、普段適当にくくっていたけど、今日はきちんと編みこみもして、花飾りがついたゴムでひとつにまとめて、少しだけ凝ったポニーテールにしてみた。マニキュアは淡い桜色だし、化粧も控えめだけどバッチリした。前にろっちーが似合うって褒めてくれた、スワロフスキーのネックレスとイヤリングもつけてみた。
 頑張り過ぎて、似合わないかもしれない。ものすごく不安だ。
 不安げにウインドウに映る自分を見ていると、あの〜と、控えめな声が聞こえた。そっちに振り返れば、知らない男の人が一人。
「はい。どうしました?もしかして、道に迷いましたか?」
「あ、いえ、そういうわけでもないんですが。その、ここらへんに美味しいコーヒーを飲める喫茶店とかありますか。」
 男の人は、要領を得ない感じで訪ねてきた。自信なさげに私に聞いてくる。私は、あぁそれなら、とオススメの店を紹介しようとしたら、突然後ろから抱きつかれた。
「それなら、あそこに見える店がいいよ。安いし。」
「あ、あ、そ、そうですか。失礼しました。」
 男の人はそそくさとそう言ってその店の方に向かった。少し走っている。というか、あの店はチェーン店のハンバーガー屋さんだ。
「ろっちー、おはよう。あそこ、ハンバーガー屋さんじゃない。適当なこと言ったら可哀想だよ。」
ちゃん。そんなことよりどうして今日はそんなおしゃれしたの。」
「ろっちーのためにおしゃれしてきたんだよ。似合わなかった?やっぱり、可愛い恰好は似合わない?」
 地面が目に映る。ちょっとぼやけてきた。やっぱり調子に乗って可愛い恰好なんて着るんじゃなかった。適当な格好をすればいつも通り楽しめたかもしれないのに。
「似合ってる。可愛い。いつも可愛いけど、いつも以上に可愛い。むしろ可愛すぎてだめ。どの男も今のちゃんを見るだけで、どんな痛みも忘れちゃうくらい可愛い。でも俺以外の目に触れるからだめ。」
 ろっちーの言うことは意味不明だ。
「誰も、私に見向きなんてしないよ。ろっちーやノンちゃんたちだけだよ、私の相手をしてくれるのは。」
「しかも自分の可愛さに無自覚だからだめ。オシャレ禁止。オシャレするなら俺が家に迎えに行く。」
「迎えに来てくれるの?えへへ、ありがとう。」
 ろっちーは、私に、もしかして計算?そんな計算高いちゃんも可愛いから許す!みたいなことを言って私を抱きしめてくれた。ろっちーのにおいが落ち着く。

「それと、誕生日おめでとう。これ、誕生日プレゼント。」
「え?ありがとう!」
 ろっちーには今日が誕生日だって言った覚えがないんだけど。たぶんみんなが気を利かせて伝えてくれたんだろう。嬉しい。開けると可愛い香水。
「それ、俺の香水の女の子用のやつ。みんなに聞いたら、ちゃんが俺の香水欲しがってるって聞いて。でも抱き着いたときに俺のにおいだと俺が嫌だから、ちゃんにはペアの香水をあげる。」
 少しにおいを嗅いでみると、甘いけれど爽やかなフローラルの香り。すごく可愛い。
「すごくいい匂いがする。本当にありがとう。」
「早くつけて。他の男に可愛いが俺の物だって思わせたいから。」

きみに標結ふ