教室の中心で君を想う



 5時間目のなんともいえない満腹感とお昼寝でもしたくなる温かな日差しは、白石くんに相応しいと思う。今日も隣の席の白石くんはきれいな顔で黒板を見つめている。教師の書く意味不明な数式まで、白石くんが見ていると思えばとても素晴らしい絵画か何かに思えてしまう。思えるだけで、理解はできないけれど。私のノートには醜く憎らしい数式が並び、たぶん白石くんのノートには、彼に見つめられるために一生懸命美しく、そしてわかりやすくなろうと心に決めた数式が並ぶに違いない。そう考えれば、なんだか白石くんのノートも憎らしく思えてきた。
 私は正直いって、テニス部があまり好きじゃない。なぜか大砲のような爆音が聞こえてきたり、フェンスが突然穴だらけになったり、たまに流しそうめんをしたりと、野蛮な感じがするからだ。なんでテニス部なのにテニスをしないのか、私には理解できない。そんな野蛮なテニス部に群がる女子たちもあまり好きじゃない。確かに彼らの顔はいいかもしれないけれど、それだけであの野蛮なテニス部を許せる気持ちになんてなれない。体育会の部活は、その名に相応しく厳しい練習をしなければいけないと私は信じているからだ。
 そんなわけで、席のくじ引き結果を見たとき、私は二重でショックを受けた。ひとつめは、教卓のど真ん前だったこと。幸い一番前じゃなかったけれど、教卓から見れば、教室の真ん中でもある私の席は一番目立つ。最悪だ。その上、白石くんの隣だ。その時はまだ、私は白石くんのことが全く好きじゃなかった。私が白石くんを好ましく思えるようになったのは、白石くんの隣になれたからだ。白石くんは、あのテニス部の部長だから、群を抜いて不良だと思っていた。確かに成績は優秀だけど、不良でなければテニス部を率いるなんてことはできないだろうと。彼の見た目、特にあの左手の包帯は一体なんだというのだ。あれだけ普通に使っているのだから、たいそう重い怪我をしているわけでもないだろう。傷跡なら、長袖の下まで包帯を巻く必要なんてない。どんな厨二病を患えばあんなことになるのか、それは彼を好ましく思う今でも理解できない。

さん、どないしたん?さっきから俺のノート、けったいな顔して見てるけど。ノート写されへんかったん??後で貸そか?」
 テニス部と白石くんの包帯について考えていたら、ついつい険しい顔になってしまったらしい。顔を戻すのと同時に、白石くんが申し出てくれたおかげで、私のノートが途中から授業に置いてけぼりを食らっていることに気が付いた。お願いします、と両手を合わせると、白石くんがええよ、と言わんばかりに笑顔で頷いた。こういう面倒見が良いところも好きだ。
 白石くんはまた、黒板をまっすぐ見る。私はこれ以上白石くんの方を向かないように自分に注意しながら、自分の汚いノートを見た。白石くんのノートは私の想像通り、美しくわかりやすいんだろうか。無駄が嫌いと噂の彼のノート、どれほど整然と数式が並ぶのだろうか。ついでにこの式の解き方を教えてもらえないだろうか。でも放課後はきっと、憎きテニス部に行くんだろうから、教えてもらうのは厳しいか。まぁ、彼が関わるものに触れるならそれでいい。
 私の欲望は果てしない。それでも今は、このままで十分幸せだ。