「克朗、今日は楽しかったね!」
 今日は二人で買い物に行ってきたのだ。いつも部屋着で克朗に逢うのは申し訳ないから、久々におめかしをして。克朗が気に入ってくれた香水をつけて、克朗が好きそうな服を着て、二人で。今日買った服も、克朗が気に入ったみたいだから買ってみた。ちょっと大人っぽい黒のスカート。ひざ下丈が克朗は好きらしい。克朗に好かれていたいから、そういうお上品というか、大人しめの服ばかりが増えていく。克朗と付き合うまでは、ミニとか結構履いていたんだけれど。
 克朗とは、私の両親が事故で死んだ時から、一緒に暮らしている。克朗は優しい。いつだってそばにいてくれて、いつだって微笑んでくれる。私を癒してくれる。仕事で失敗したときも、ずっとそばで話を聞いてくれた。克朗は、アドバイスとかそういう具体的なことはしないけど、むしろ、そういうときは話を聞いてくれるだけでありがたかった。克朗には感謝してもしきれない。多忙なはずなのに、いつでも助けてくれる。克朗は、優しい。

「疲れたね。ちょっと甘いもの食べて休憩しようよ。」
 そういって、豆大福をふたつ出した。克朗の実家の豆大福よりは劣るけれど、それでもここの豆大福も美味しいのだ。克朗にはいつもそう言ってるけど、納得がいかないらしい。くそぅ……。これも美味しいのに。いや、確かに克朗のご実家の豆大福さまは格別だ。克朗のお母様が作っていらっしゃるのか、お父様が作っていらっしゃるのか、私は知らないけれど、ものすごく美味しい。さすが老舗って感じだ。なにより、克朗に関する人が、克朗を作り上げたひとが作ったかもしれないっていうのが、さらに美味しさを倍増させるのだ。緑茶と一緒に豆大福も食べる。すごく美味しい。出来立てではないけれど、それでも十分柔らかい。口に入れたら、おもちのもちもち感と、小豆の豆の感触が、なんとも言えない。克朗が豆大福好きなの、よくわかる。口の中に甘さが残ってる間に、緑茶を飲めば、もう、なんともいえない。この世の楽園かと思うもの。そんな私を、克朗は笑いながらみている。いいじゃない、べつに、食べ物で幸せになっても。克朗と同じものが好きだ、なんて幸せなことでしょう?克朗が、いつまで経ってもこっちを見て笑うから、克朗の分も食べてやった。 いつまでも置いておく克朗が悪いんだ。

 克朗の豆大福を私が食べたから、克朗がちょっとムッとしてる。私はあわてて話題をかえようと話し出す。
「そういえば、この前の同窓会、ビックリしたね。」
 克朗は、なんのことだ?とでも言いたそうな顔でこっちを見る。
「ほら、私、外では克朗って呼ばないことにしてるのに、急に克朗が同窓会に現れるんだもん。びっくりしちゃって、名前で呼んじゃって。あの時の克朗の顔!今思い出しても笑っちゃいそうなぐらいびっくりしてて。私、さらにびっくりしちゃって謝っちゃったじゃない。」
 そういうと、克朗も思い出したみたいで、少し照れた顔になった。あの時は、本当にびっくりしたのだ。克朗は有名人だから、日本を背負う守護神様だから、克朗に迷惑をかけないように、外で克朗の名前を呼ばない。たまに、仕事場に現れてしまうときなんかは、ついつい克朗って呼んじゃうけど。
 それにしても、普段これだけ一緒にいるんだから、同窓会に行くことぐらい、教えてくれてもいいのに。仕事の時以外は、私と克朗はいつも一緒なんだから。たまに仕事場から電話かけちゃうから、お局様には睨まれるようになっちゃったけど。まぁ、克朗ほどステキなひとと続くためには多少の犠牲は仕方がない。
 あとから聞いたけれど、克朗が同窓会に来たのは、私の親友だったひとたちが、頼み込んで呼んだらしかった。克朗と付き合い始めたからか、彼女たちは嫉妬したみたいで、私とは疎遠になっていた。もしかしたら、同窓会に克朗を呼ぶことで、私たちの仲を明らかにして、祝福しようとしてくれていたのかも。克朗も優しいから、断りきれずに同窓会に来ちゃったんだろうなぁ。でも残念。私は克朗のことをちゃんと考えてるから、外では絶対に克朗とのこと、バレないようにしてるもの。嘘。本当は克朗のため、って言ってるけど、私のためでもある。彼女たちは、私にとって、本当に大事な親友たちだったもの。それが、悲しいかな、魅力あふれる恋人の存在を明かすと、最初は喜んでくれたのに、そのうちみんな信じてくれなくなる。その上、疎遠になっていくのだ。だから、私はもう、誰にも克朗の事は明かさないことにした。

 私が黙るからか、克朗は私が怒ってると勘違いし始めたみたい。おろおろとしているのがよくわかる。
「怒ってないよ。テレビでも観る?」
 克朗に微笑みながら、テレビをつけると、ニュースが映る。ちょうどサッカーになったばかりのようだ。
「あれ、今日試合だったの、克朗。じゃあ、今日の試合の話を聞かせてよ。」
 克朗はちょっと困った顔だ。こんな時、いつも克朗は苦笑する。苦笑する姿は滅多に見れないから貴重だ。私、全然怒ってないのに。こういう時、私はいつも克朗の横に座り、そして、ハイライトを見るのだ。


 ねぇ、克朗。克朗の今日を聞かせて?