10ねんごのわたしへ。

10ねんごのわたし、こんにちは。
10ねんごのわたしは、しずちゃんとけっこんしてますか。
わたしは、しずちゃんがだいすきです。
しずちゃんは、ちょっとおこりっぽいけど、いつもわたしをたすけてくれます。
このまえも、わたしがおかたづけをせずにおこられてないていたので、
しずちゃんとかすかちゃんがおてつだいしてくれました。
ほんださんのぽちくんにおいかけられておおなきしているところを
しずちゃんがたすけてくれました。
しずちゃんほどやさしくてかっこよくてわたしをたすけてくれるひとはいません。
もしもまだしずちゃんとけっこんしてなかったら
いますぐしずちゃんにおねがいしてけっこんしてください。
しずちゃんはいつもわたしがなくといちばんにたすけてくれます。
だからしずちゃんにないてたのめばいいとおもいます。
しずちゃんはやさしいからきっとおねがいきいてくれるとおもいます。
しずちゃんとずっといっしょがいいです。
 

10ねんまえの
 

 

 私は自分のタイムカプセルの手紙に思わず笑ってしまった。
大きくて汚い字で一生懸命書いてある手紙は、びっくりするほど静雄君のことばかり書いてある。
おまけに、最後に私と静雄君の結婚式の絵まで下手ながら描いてあるものだから、余計笑ってしまう。

 静雄君と幽君と私、10年以上前に3人でこのタイムカプセルを埋めた。
私たちはウキウキして自分たちの宝物や手紙を持ってきて、幽君が持ってきたおもちゃの缶詰にいれた。
と、いっても宝物は小さなものしか入らなかったし、結局大したものはいれられなかったんだと思う。
現に10年以上経った今、この缶詰の中を見てもたくさんのものは入っていなかったから。
むしろ思い出のほうがたくさん詰まっている。
この缶詰は今の私たちを懐かしさに包んでくれる。

 私たち、とは言ったけれど幽君は不参加だ。
本当は幽君も一緒に、と思っていたのに休みが全く無いらしい。
私と静雄君は幽君もぜひ!と思っていたけど、何が入ってるか気になるから先に開けといて、と言われてしまったのだ。
こう言われたら弟想いの静雄君は、じゃあ、今晩にでも行こうぜ、となる。
そうなったらもういたしかたないので、二人で当時秘密基地だった近所の神社の軒下にわざわざ仕事帰りの夜中にやってきた。
なんで夜中かというと、無人の神社ではあるもののその神社の軒下にその秘密基地はあったからだ。
静雄君が掘るとすぐおもちゃの缶詰はでてきた。
そのときはまだ静雄君も怪力ではなかったし、子どもの力ではこの深さが限度だったんだと思う。
今の私たちにはありがたいことだ。すぐに私たちは軒下からでてくることができた。

 子どもとはいえ神をも恐れぬ所業だね、と静雄君に言ったら何故かじろりと睨まれた。
どうやら、イザヤという人に口調が似ていたらしい。
私は高校から静雄君と違う学校に行ったので、そのイザヤという人がどれだけ静雄君と仲が悪いのか又聞きのような形でしか知らない。
これだけ近くに住んでいるのに、特にその人と接触せずに普通に生きることができるのは幸せなことなんだろう。
静雄君を見ているとそう思う。
静雄君がイザヤという人にいらいらしているさまは、まるで重い生理中の人のようになるので、きっとよほど辛くて嫌いなんだと思う。
実際は知らないし、言ったこともないけど。言ったらすごく怒るだろうし。

、お前のどうだった?」
静雄君は、どうやらやっと自分の手紙を判読できたらしい。
どういうわけか静雄君の手紙だけ、ナイロン袋に入っていなくてとても汚くなっていたのだ。
たぶん袋が足りないか何かで、静雄君だけ遠慮したんだと思う。
昔から優しいのだ。
幼い私に言われなくても、それはわかってる。

「びっくりするくらい、希望に沿わない人生送ってたよ。」
私が笑いながら言うと、静雄君はものすごくさびしそうな笑顔で俺も、と小さく呟く。
でかい図体のわりに結構繊細な静雄君は、こういう時とても可愛く見えるから困る。
こんな時はどうしても、私は静雄君に甘くなってしまう。

「まだこの時って、『しずちゃん』って呼んでたんだね。静雄君のことばっか書いてあって困るよ。読んでみる?」
はい、これ。と渡す幼い私のラブレター。
そういえば、思春期のころに突然「しずちゃん」と呼ぶのが恥ずかしくなって「静雄君」と呼ぶようになった。
気付いてないんだろうな、静雄君は。
そうこうしてる間にどんどん顔が赤くなる静雄君は、やっぱり昔の「しずちゃん」と何も変わらない。
読み終わった後に、真っ赤になりながらも
「まぁ、あんときはまだ俺も普通だったしな。」
とか強がる静雄君はやっぱり可愛い。

「静雄君に力があろうがなかろうが、私は静雄君が大好きだよ。静雄君は静雄君だもん。」
。お前はすぐにそうやって誰にでも好きっていうのやめろ。」
照れ隠しかしらないけど、静雄君は私の頭を強めにがしがし撫でる。
犬になった気分だ。今日は静雄君としか会わないからぐしゃぐしゃになっても構わない。

「誰にでも言ってるわけじゃないのに。泣いて頼めば結婚してくれる?」
にへへと笑ってしまった。いつも通りに。
静雄君はパン屋のお姉さんの辛い思い出のせいで誰かを好きになれない。
優しい静雄君はもう好きな人を傷つけないように、好きな人を作らないから。
だから、ついつい逃げ道を作ってあげてしまう。
意外に臆病な静雄君をいじめたくはないのだ。でも、気持ちは伝えたい。
まぁ、だから本気にされないんだけど。

「泣かなくても、自分の怒りに勝てるほど強くなったら、を嫁にもらってやるよ。」
さっきより強くがしがしがしがし私を撫でる。
でもよかった。おかげで予想外のことばで真っ赤な私を見られなくても済むから。


時間差ラブレター