キラキラと輝くネオンは、人々を祝福するようである。その中で、ひときわ輝く街並みがある。そこはそれほど広いというわけでもないものの、カップルたちの憩いの場である。なぜカップルたちの憩いの場と言い切れるかというと、その数が他所よりも実質多いからだ。そして、その場所で数時間ほど滞在していることもまた、傍証のひとつとなるだろう。
 ただ、そこにいるカップルたちの特徴として、逢瀬がばれぬよう、マシにいえば、幾分こっそりと、悪くいえば、こそこそとまるで親の目を盗んで悪いことをする子どものように、道のところどころに点々とカップルたちがいることがあげられる。また、時には男性ひとり、もしくは女性ひとりがいることもあるが、それは少数であるし、同性同士でこの場所を歩くひとは、ほぼ皆無である。
 私と高尾くんもまた、そういったカップルたちに紛れ、仲良く二人でこそこそと道の隅を歩く。様々なネオンが私たちを誘惑するものの、なかなか決定的な要素のある建物には出くわさない。それぞれ違いはあるのだろうけれど、どうせ目的はひとつなので、なんだかどうでもよく感じてしまうのだ。すでにこの道は2週目である。私たちの前のカップルは、結局一番安いところに決めたようだ。ちょっと小走りに入口に吸い込まれていった。

「ねぇ、ちゃんは、南国リゾート風のとこと、コスプレできるとこと、もう適当に入っちゃうのと、どれがいい?」
 高尾くんは、楽しげに私に聞いてくる。
「高尾くんと一緒ならどこでもいいよ。」
 私がそう答えると、高尾くんは嬉しそうに、じゃあもう、近いとこはいっちゃおっか!と繋いだ手をさらにぎゅっと握りしめる。まるで、私たちは冒険にでも来た子どものようだ。大人たちに内緒で、私たちは冒険する子ども。高尾くんは、私の手を引いて、小走りに古ぼけた建物に入る。高尾くんの小走りは、私にとっては結構速い。急いで遅れないように足を動かした。

 建物の中に入るとすぐに、「真実の口」のようなオブジェが私たちを出迎えた。高尾くんが高尾くんらしく、口に手をつっこもうとしているけれど、止めた。息が上がるほど走ったわけでもないので、私が手を入れさせなかったのだ。高尾くんはそんな私をにやにやしながら見つめる。恥ずかしいので誰も座っていないソファーを横目に、さっさと奥に進む。横からフロントのおばちゃんが、じろりと少し私たちを見た。そこでやっと、なんだか少し現実に戻った気がして、恥ずかしさが顔にぼっとでてきた。
「なに今更恥ずかしがってんの、ちゃん。そういうとこ、ほんとかわいい。」
「恥ずかしがってなんかいないから、だめ、ちょ、抱きつかないで。」
 高尾くんはこういうところだと、いつも以上にスキンシップが激しくなる。フロントのおばちゃんに聞かれたり、見られたら、もしもお客さんが後ろから来たらどうしようと、私はわたわたしてしまう。そんなこともお構いなしに、結局私に抱き着いたまま、高尾くんは、どの部屋にするー?と上機嫌だ。恥ずかしくてしょうがない私は、結局相変わらずどれでもいい、と無愛想に言った。高尾くんは、それでもやっぱり笑いながら、少し広そうな見た目の三階の部屋のボタンを押して、私をそのままエレベーターまで連れて行った。

「なんか、適当に入ったけど、古くね?」
「んー。確かに。でも、これはこれでおもしろいかも。」
 普段行くのは、新しそうなところばかりなので、新鮮だ。高尾くんは相変わらず私にひっついたまま、耳元でぼそぼそしゃべる。
「エレベーターも、ちょっと古めかしいね。狭いし。」
「あ。でもエレベーターはこれでいいわ、俺。」
 そういうと、私の首を無理やり動かして、私にキスをする。ちゅっちゅっと啄むようなキスが、唇を舐めて、それから少しずつ深くなっていく。チーンと間抜けな音がして、扉が開いた。
「こんなにギュッてしやすくて、チューしやすいとか、よくね?」
「……首痛かったんですけど。」
「ごめんごめん。」
 高尾くんは、私の照れ隠しに笑う。そして、やっと少し離れて、私の手を握りなおした。狭いエレベーターも良いけれど、やっぱり恥ずかしい。エレベーターを降りると、淡い光を発して、矢印が私たちを導く。臙脂色のじゅうたんを踏みしめて、リネン室を横切る。片隅の部屋のライトが光輝いて、ここが私たちの目的地だと示していた。

 部屋に入ると、精算機をしり目に、とりあえず鍵を閉めて、部屋の探検を始める。これは、私たちのお決まりのパターンだ。真っ先に見るのはベッドルーム。
「ちょ、ちゃん!!!見て!謎のミラーボール!!!天井、鏡張り!」
「わぁ!なにこれ、すごい!おもしろい。こういうところもありだね、高尾くん!」
 私たちのテンションは、すでに最高潮に近い。こんな部屋、初めてだ。いつもと違うのも楽しい。高尾くんは、ハイテンションのまま、照明の明るさを調節したりしている。一通り楽しんだ後、薄暗くして、次の目的地のトイレに行く。
「あ。トイレは小さいね。」
「お。ちゃんとトイレ、鍵ついてねーじゃん!」
「覗いたら殺します。」
「ごめんなさい。」
 高尾くんは笑って済ましたけれど、以前、覗いた前科者なので、容赦はしない。俺の覗いてもいいよ?と言われたけれど、興味がないし、見たくない。全く持って不公平だ。
「お風呂、ガラス張り……だね。」
「いーじゃん。後で二人で入るんだから、関係ないっしょ。とりあえず、お湯入れとこー!」
 古めかしいお風呂は、お湯とお水をこちらで調整しないといけない仕様だ。高尾くんが、高尾くん好みの温度にしようと、手で確かめながらお湯を溜めていく。広めだから、お湯が溜まるまで結構かかりそうだ。
「溜まるまで、ちょっと二人で一回いちゃいちゃしね?」
「でも、汚くない?」
「俺はちゃんが好きだからいいっていつも言ってるでしょ。ね、お願い!」
 お願い、と言いながら、私のことをすでに抱きかかえているんだから、意味がわからない。そのままベッドの上まで運ばれる。反論しようにも、初めから深いキスを私にくれるのだから、言いようがない。なんとなく生まれた反抗心から、目を少し開けると、ミラーボールがお風呂の光を反射して、薄暗い部屋で光を放っていた。